亜炭廃坑を抱える御嵩町は、災害時に避難所となる施設の地盤を調査する事業費を新年度予算に盛り込む方針を固めた。事業費の3分の2は、鉱害復旧のための基金でまかなう。石炭産地などの鉱害復旧のための基金は全国12県に設置されているが、まだ被害が起きていない場所の調査に基金を充てるのは、全国でも初めてのケースとなる。(高木文子)
今回の調査について、渡辺公夫町長は「将来的に地下の充填(じゅう・てん)(穴埋め)を試験実施することも視野にした前向きな調査」と位置付ける。町内にある小中学校、公民館など23カ所の避難所のどこを対象にするのか、検討を進めている。
町の市街地の4割は亜炭層で、多くの廃坑を抱える。昨年9月には東西40メートル、南北30メートルにわたる陥没があり、住宅や畑が被害を受けた。
02年度に設置された鉱害復旧のための基金には、被害が出る前に調査や対策を取る仕組みがなかった。
柳川喜郎前町長は「国に予防策を働きかけたい」と、02年から町独自の調査を実施。東海地震により、町内の30メートルより浅い個所で153カ所の陥没の恐れがあると分かった。05年には金子一義議員が、衆院予算委員会で「防災面で放置できない問題」と指摘した。
県と国が協議し、07年度から県内4市町が災害避難所の調査に1250万円ずつ使える仕組みが出来た。
県内で調査費を使える瑞浪、可児、中津川の各市は静観の構えだ。「避難所の地下に坑道がない」(瑞浪市)、「地価にもかかわる非常にデリケートな問題。地元の区長が住民全体の意向を取りまとめて要望を出せば、対応を考える」(中津川市)などとする。
防災の観点から基金を使うのは、全国でも初めてになる。「ほとんどの県が基金を取り崩して復旧費に充てている状態」(NEDO=新エネルギー・産業技術総合開発機構)だからだ。
基金ができた02年度当時、全国の鉱害復旧費の9割を占めた福岡県は、06年度の復旧費は8億3千万円で、基金の残高は358億円。02年度から約26億円を取り崩した。管理する特定鉱害復旧事業センター(福岡市)は「復旧工事で手いっぱい。防災面まで考えがいっていない」と話す。
◆傾く家、地下の対策なく
一方、鉱害の被害者や御嵩町は、基金とは別の救済の仕組みを訴える。
1月下旬。9月の陥没で家の床が傾くなどした佐々木宏さん(62)が、基金を管理する県産業経済振興センターと話し合った。
同センターの業務規定で、復旧対象は家屋の傷みだけ。地下に陥没の原因となった廃坑が走っていても「予防措置にあたる」として埋められない。妻すみ子さん(57)は「また陥没が起きたら……。次は、家がつぶれてしまうんじゃないかって」。肩を落とした。
「被害者の心情はよく分かる。だが予防に道を開けば(被害が多い)九州は大変なことになる。『パンドラの箱』を開けるようなもの」と、ある職員は明かす。
今回の現場でも、埋め戻しに数千万円がかかるという。約4億9千万円の基金の運用益では、とてもまかなえない。
さらに、陥没でけがを負った場合も、基金で補償できない。今回は家屋に大きな被害を受けたのが1世帯だけだが「ここで納得出来なければ、次の陥没で同じ目に遭う人が出る。新しい制度が必要」と佐々木さん。
最初の陥没で数ミリだった軒下の亀裂は、4カ月で5センチほどに広がった。一日も早く復旧工事が始まって欲しいが、工事に同意するかどうか決めかねている。
■鉱害 石炭などの採掘による地盤沈下や傾斜で、家が倒れたり土地が陥没したりした被害。かつては国が中心になって復旧にあたったが、「炭坑節」で知られる九州の筑豊地方では、巨額の復旧事業に介入して利益をあさる「鉱害屋」が横行。贈収賄も相次いだ。02年度に岩手、山形、愛知、福岡、長崎など12県で、NEDOと各県による基金が設置された。
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